会社設立のウソとホント
毎秒にして三二トン。
縦五メートル、横五メートル、厚さ一メートルの上が、瞬きする間に風や雨に運ばれていくのを想像できるだろうか。
過去一五年間に、少なくとも一五〇億トンの土壌が高地から流失した。
これを国土に平均して積み上げると、二五センチの厚さになる。
この栄養分を豊かに含んだ表土が川に流れ込み、ナイル川の源流から土壌流失後の無残な姿。
エチオピア,ウォロ州で。
(FAO提供)下流へと運ばれていく。
この世界でも最貧国に数えられるエチオピアは、表土という貴重な農業資源を無償で下流のスーダンやエジプトに提供しているのだ。
土壌の荒廃によって農業生産が急速に落ち込み、国内では二六〇〇万人分の食糧を生産するのが精一杯だ。
現実には、その「七倍もの人口が住むのである。
こうして、エチオピアは世界で最悪の栄養水準となった。
干ばつがなくても、慢性的な栄養不足が蔓延しているのだ。
これは、エチオピアだけの悲劇ではない。
ネパール、インド、タイなどの東南アジア、そしてペルー、コロンビア、ボリビアなどの中南米でも、同様の過程が進行して飢餓をもたらす直接的な原因になっているのだ。
もはや一時的な食糧援助ではどうしようもないところまで、農業基盤が破壊されてしまった国も少なくない。
土壌侵食に悩むのは、発展途上国にとどまらない。
米国では、過去一〇〇年間に三度も大規模な土壌の荒廃を経験している。
北米大陸中央部の大平原地帯で、開墾が本格的に始まって間もなくの一八八〇年代、次いで一九二〇年代にも大量の表土が、風で舞い上げられ雨で流れ出した。
最大の危機は、三〇年代に大恐慌とあい前後して起こった大干ばつとともにやってきた。
中部から西部一帯にかけて大砂塵が覆った。
オクラホマ、テキサスなど中、南部五州は畑の表土が失われて凶作となり、農民が次々に別の土地を求めて流民となった。
この有様を描き出したのが、スタインベックの名作『怒りの葡萄』である。
最近、再び米国は同じような土壌危機に見舞われようとしている。
土壌保全局は一九七七年から五年ごとに、土壌の全国一斉調査を実施している。
八二年の二〇万力所のサンプリング調査の結果では、四四%の農地で過剰の流失を起こし、一億六八〇〇万ヘクタールの農地から毎年六四億トンという膨大な土壌が失われていた。
日本の耕地に厚さ八センチに敷きつめられる量だ。
この表土流失は穀倉地帯で広範囲で発生している。
今でこそ、米国は「世界のパン寵」といわれて最大の農産物の輸出国だが、その足下から少しずつ崩れ始めているのだ。
ソ連は世界最大の農地面積を誇るが、同時に世界最大の土壌流失国でもある。
これまで実態が発表されたことはないが、モスクワ大学土壌学研究所の論文や政府資料の断片的な情報から推定すると、事態はかなり深刻のようだ。
ソ連は七二年の凶作のあと、増産のために、輪作の廃止、休耕期間の短縮、畑の拡大、大型機械の導入などがそれ以前にもまして大々的にはかられ、防風林や林地は機械化の邪魔になるとして伐り倒された。
これが雨や風による土壌侵食を招き、とくに春先には緩んだ表土が雪解けの水にさらわれる。
ある西側の推定では、毎年、侵食によって五〇万ヘクタールの耕地が放棄される。
『ソ連経済ジャーナル誌』は一九七八年に、「ソ連の耕地の三分の二はさまざまな侵食の影響を受けている」というソ連の土壌専門家の論文を掲載している。
モスクワのドクチャエフ土壌研究所が発表した報告には、休耕裸地一ヘクタール当たりの年間土壌流失量は、バルト海沿岸で五九トン、モスクワ北部のロストフ地方で四六トン、コーカサス一帯で三二トンという例が提示されている。
米国でひどいとされるテネシー州の四一トン、アイオワ州の二五トンなどと比べて、いかに大量の土壌が流れ出しているかが分かる。
ソ連の農業が不振を続けるのは、この土壌の悪化も原因の一つである。
日本についても触れていく必要があるだろう。
八四年九月に「地力増進法」が施行され、本格的な土壌保全策が始動した。
この背景には、これだけ農業技術が進歩し、肥料や農薬の投入量が増大しているのに、イネなどの収量が頭打ちなのは地力の低下によるという反省に基づくものだ。
農水省の地力保全基本調査によれば、一八〇万ヘクタールの畑のうち、一三%で土壌侵食の被害を受けている。
一九六五年前後と七五年以降を比較すると、水田(調査地点約三五〇〇ヵ所)の四五%で作土が浅層化、三九%で養分保持力の低下をきたし、畑(同約一五〇〇力所)の三六%で浅層化、三九%で保持力低下を示している。
農業の機械化は農民を重労働から解放し、平均農家所得の七割以上を農外所得から得るのを可能にしたほど労働力の余裕を生み出した。
だが、その機械化、農薬依存の陰で手間のかかる土壌づくりがなおざりにされていたことを、何より雄弁に物語るものだろう。
とくに、日本の土壌は米国の土壌と比べても比重が半分しかない軽い火山灰上が多く、本格的な侵食の影響を受け始めたら、その速度も広がりも米国以上になるだろう。
世界的に加速している土壌流失の原因の第一に挙げられるのは、すでにのべたように無理な耕地の拡大である。
何百年もの間、休耕、輪作、防風林など、土壌流失を防止するさまざまな技術が継承されてきた。
その中でも、山岳地帯の国でもっとも威力を発揮してきたのは、段々畑や棚田である。
現在でも、日本、中国、インド、ネパール、インドネシアなどの山合いの多い23アジア諸国、ペルー、コロンビアなどのアンデス諸国、マダガスカル、レソト、ルワンダなどのアフリカ諸国では階段状の田畑が作られ、傾斜地からの土壌の流失を防いできた。
今やこれらの地域で、増産に迫られて斜面を上へ上へと畑が這い上がっている。
これまで開墾されなかった急な斜面にまで、しゃにむに段々畑が切り開かれるにつれ、雨や風に触発される土砂崩れによって、畑も村も大きな被害を被る。
この代表的な例はネパールである。
ヒマラヤ山脈のふところ深く抱かれたこの国は、可耕地は多目に見積もっても国上の一五%ほどしかない。
一方で、一七二五万人(一九八七年)の人口の方は、年率二・三%、つまり年約四〇万人ずつ増える。
この増加分をやしなうために、新たに開墾しようにも、もはや悪条件の場所しか残されていない。
つまり、現在の段々畑のさらに上の急斜面を開墾するしかない。
こんな場所では豪雨や雪解け水でたちまち表土が洗い流されていく。
こうした高地の急峻な斜面の表土は薄く、あとは不毛の下層上申岩が露出して作物は育たない。
しかも、高い場所で崩れた土砂は下の緩やかな段々畑をも巻き込んで、将棋倒しになっていく。
ネパール政府の調査では、人口密度の高い東部高地では実に畑の三八%が農耕放棄地だという。
そして、第二の原因が休耕期間の短縮である。
土の養分や水分を回復させるために定期的に畑を休ませるのは、高温のために土中の有機物が容易に分解する熱帯や、土壌水分がつねに不足している半乾燥地帯では、欠かせない土壌保全法だ。
サヘル地方、アマゾン地方、インド亜大陸など熱帯から亜熱帯にかけての広大な面積が、休耕によって地力を回復してきた。
熱帯地方で広く行われてる石焼き畑も、一種の休耕方式である。
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縦五メートル、横五メートル、厚さ一メートルの上が、瞬きする間に風や雨に運ばれていくのを想像できるだろうか。
過去一五年間に、少なくとも一五〇億トンの土壌が高地から流失した。
これを国土に平均して積み上げると、二五センチの厚さになる。
この栄養分を豊かに含んだ表土が川に流れ込み、ナイル川の源流から土壌流失後の無残な姿。
エチオピア,ウォロ州で。
(FAO提供)下流へと運ばれていく。
この世界でも最貧国に数えられるエチオピアは、表土という貴重な農業資源を無償で下流のスーダンやエジプトに提供しているのだ。
土壌の荒廃によって農業生産が急速に落ち込み、国内では二六〇〇万人分の食糧を生産するのが精一杯だ。
現実には、その「七倍もの人口が住むのである。
こうして、エチオピアは世界で最悪の栄養水準となった。
干ばつがなくても、慢性的な栄養不足が蔓延しているのだ。
これは、エチオピアだけの悲劇ではない。
ネパール、インド、タイなどの東南アジア、そしてペルー、コロンビア、ボリビアなどの中南米でも、同様の過程が進行して飢餓をもたらす直接的な原因になっているのだ。
もはや一時的な食糧援助ではどうしようもないところまで、農業基盤が破壊されてしまった国も少なくない。
土壌侵食に悩むのは、発展途上国にとどまらない。
米国では、過去一〇〇年間に三度も大規模な土壌の荒廃を経験している。
北米大陸中央部の大平原地帯で、開墾が本格的に始まって間もなくの一八八〇年代、次いで一九二〇年代にも大量の表土が、風で舞い上げられ雨で流れ出した。
最大の危機は、三〇年代に大恐慌とあい前後して起こった大干ばつとともにやってきた。
中部から西部一帯にかけて大砂塵が覆った。
オクラホマ、テキサスなど中、南部五州は畑の表土が失われて凶作となり、農民が次々に別の土地を求めて流民となった。
この有様を描き出したのが、スタインベックの名作『怒りの葡萄』である。
最近、再び米国は同じような土壌危機に見舞われようとしている。
土壌保全局は一九七七年から五年ごとに、土壌の全国一斉調査を実施している。
八二年の二〇万力所のサンプリング調査の結果では、四四%の農地で過剰の流失を起こし、一億六八〇〇万ヘクタールの農地から毎年六四億トンという膨大な土壌が失われていた。
日本の耕地に厚さ八センチに敷きつめられる量だ。
この表土流失は穀倉地帯で広範囲で発生している。
今でこそ、米国は「世界のパン寵」といわれて最大の農産物の輸出国だが、その足下から少しずつ崩れ始めているのだ。
ソ連は世界最大の農地面積を誇るが、同時に世界最大の土壌流失国でもある。
これまで実態が発表されたことはないが、モスクワ大学土壌学研究所の論文や政府資料の断片的な情報から推定すると、事態はかなり深刻のようだ。
ソ連は七二年の凶作のあと、増産のために、輪作の廃止、休耕期間の短縮、畑の拡大、大型機械の導入などがそれ以前にもまして大々的にはかられ、防風林や林地は機械化の邪魔になるとして伐り倒された。
これが雨や風による土壌侵食を招き、とくに春先には緩んだ表土が雪解けの水にさらわれる。
ある西側の推定では、毎年、侵食によって五〇万ヘクタールの耕地が放棄される。
『ソ連経済ジャーナル誌』は一九七八年に、「ソ連の耕地の三分の二はさまざまな侵食の影響を受けている」というソ連の土壌専門家の論文を掲載している。
モスクワのドクチャエフ土壌研究所が発表した報告には、休耕裸地一ヘクタール当たりの年間土壌流失量は、バルト海沿岸で五九トン、モスクワ北部のロストフ地方で四六トン、コーカサス一帯で三二トンという例が提示されている。
米国でひどいとされるテネシー州の四一トン、アイオワ州の二五トンなどと比べて、いかに大量の土壌が流れ出しているかが分かる。
ソ連の農業が不振を続けるのは、この土壌の悪化も原因の一つである。
日本についても触れていく必要があるだろう。
八四年九月に「地力増進法」が施行され、本格的な土壌保全策が始動した。
この背景には、これだけ農業技術が進歩し、肥料や農薬の投入量が増大しているのに、イネなどの収量が頭打ちなのは地力の低下によるという反省に基づくものだ。
農水省の地力保全基本調査によれば、一八〇万ヘクタールの畑のうち、一三%で土壌侵食の被害を受けている。
一九六五年前後と七五年以降を比較すると、水田(調査地点約三五〇〇ヵ所)の四五%で作土が浅層化、三九%で養分保持力の低下をきたし、畑(同約一五〇〇力所)の三六%で浅層化、三九%で保持力低下を示している。
農業の機械化は農民を重労働から解放し、平均農家所得の七割以上を農外所得から得るのを可能にしたほど労働力の余裕を生み出した。
だが、その機械化、農薬依存の陰で手間のかかる土壌づくりがなおざりにされていたことを、何より雄弁に物語るものだろう。
とくに、日本の土壌は米国の土壌と比べても比重が半分しかない軽い火山灰上が多く、本格的な侵食の影響を受け始めたら、その速度も広がりも米国以上になるだろう。
世界的に加速している土壌流失の原因の第一に挙げられるのは、すでにのべたように無理な耕地の拡大である。
何百年もの間、休耕、輪作、防風林など、土壌流失を防止するさまざまな技術が継承されてきた。
その中でも、山岳地帯の国でもっとも威力を発揮してきたのは、段々畑や棚田である。
現在でも、日本、中国、インド、ネパール、インドネシアなどの山合いの多い23アジア諸国、ペルー、コロンビアなどのアンデス諸国、マダガスカル、レソト、ルワンダなどのアフリカ諸国では階段状の田畑が作られ、傾斜地からの土壌の流失を防いできた。
今やこれらの地域で、増産に迫られて斜面を上へ上へと畑が這い上がっている。
これまで開墾されなかった急な斜面にまで、しゃにむに段々畑が切り開かれるにつれ、雨や風に触発される土砂崩れによって、畑も村も大きな被害を被る。
この代表的な例はネパールである。
ヒマラヤ山脈のふところ深く抱かれたこの国は、可耕地は多目に見積もっても国上の一五%ほどしかない。
一方で、一七二五万人(一九八七年)の人口の方は、年率二・三%、つまり年約四〇万人ずつ増える。
この増加分をやしなうために、新たに開墾しようにも、もはや悪条件の場所しか残されていない。
つまり、現在の段々畑のさらに上の急斜面を開墾するしかない。
こんな場所では豪雨や雪解け水でたちまち表土が洗い流されていく。
こうした高地の急峻な斜面の表土は薄く、あとは不毛の下層上申岩が露出して作物は育たない。
しかも、高い場所で崩れた土砂は下の緩やかな段々畑をも巻き込んで、将棋倒しになっていく。
ネパール政府の調査では、人口密度の高い東部高地では実に畑の三八%が農耕放棄地だという。
そして、第二の原因が休耕期間の短縮である。
土の養分や水分を回復させるために定期的に畑を休ませるのは、高温のために土中の有機物が容易に分解する熱帯や、土壌水分がつねに不足している半乾燥地帯では、欠かせない土壌保全法だ。
サヘル地方、アマゾン地方、インド亜大陸など熱帯から亜熱帯にかけての広大な面積が、休耕によって地力を回復してきた。
熱帯地方で広く行われてる石焼き畑も、一種の休耕方式である。
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